コロナ激禍のインドを生き延びる!(第3回)
– やはり、日本の将来はインドしかない –
日印関係アドバイザー、MIT World Peace University非常勤講師
磯貝 富夫
6.オンラインで各種イベントにも参加
2021年2月4日、この日、インド人によって執筆された書籍、“BECOMING WORLD CLASS – Lessons from ‘Made in Japan'”のお披露目会が、鈴木哲駐インド大使閣下ご臨席の下でオンラインにて執り行われ、私もゲストとして招待を受けた。当書籍の著者はPrem Motwani元JNU大学教授で、40年間に亘り日本語教育に携わり、日本には延べ80回以上の訪問歴と6年間の滞在歴(内2年は広島大学客員教授)を持っておられる知日家で、2020年に日本国による「旭日章」を受勲されている。実はモトワニ先生とは直接の面識はなかったのだが、数年前からSNSでの交信でお付き合いがあり、今回出版された新著もお贈り下さり、つい最近届いたばかり。全470頁に亘る大著で読破できていなかったが、その「まえがき」と「結論」を読んで非常に深い感銘を受けた。この新著は、日本が築いた”Made in Japan”という信頼のブランドの背景にある日本的経営手法とその叡智を、インドのモディ首相が謳う、”Make in India”による経済発展のためのスローガンを成功に導くために活用することの重要性を主張し、インドが抱えている根本的な課題とそれに対する解決策を示唆しているもので、正に自分にとっても「目から鱗」であった。この日以来、私はモトワニ先生のこの大著を大いにPRすることになる。
同書がいつ日本で発売されるかは未定とのことだが、いつか日本語に訳されて広く流布されることを期待している。
2021年3月1日、去る1月にインド滞在10年を超えたが、この節目に友人のネットチャネル”HATKE – Think Differently, Think Positively”でインタビューを受けることになった。HATKEはヒンディー語で「差別化すること」の意味があるらしいが、この言葉を聞いて先ず思ったのが日本語の「八卦」であったので、その話から始めて、日印関係について約半時間に亘り話をしたものが、後日ネットで配信された。
2021年3月12日、横浜国立大学の日印関連イベントである、「第四回日印産官学連携人材育成セミナー」の日印関係の現状と課題というテーマに関連し、私は「コロナ禍のインドと日印関係」と題してオンライン登壇した。
2021年3月15日、マハラシュトラ州政府は集会等の人が集まる行事に対する制限措置を発表した。そのガイドラインは以下の通りである。
(1)映画館、ホテル、レストランは、利用者を50%の収容数にとどめる。
(2)社会的、文化的、政治的、宗教的等一切の集会を禁止する。
(3)結婚式については、50名以上の参加者を認めない。
(4)葬儀については、20名以上の参列者を認めない。
(5)医療関係者等の必要不可欠な業種を除き、全ての事務所は50%に出勤抑制をすること。(テレワークを推奨すること。)
(モトワニ先生の近著お披露目には溝上先生も同席されました。)
7.油断大敵!
2021年3月12日 、NHKはネットで、「インド コロナ感染拡大の中 世界最大の宗教行事」と題して以下の通り報じた。
(以下、同記事抜粋)
インドでは、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、「世界最大の宗教行事」といわれるヒンドゥー教の行事が始まりました。「クンブ・メーラ」と呼ばれるこの行事は、インドにある4つのヒンドゥー教の聖地で周期的に行われ、期間中に延べ1億人以上が川に入って身を清めるといわれています。今回は、ヒンドゥー教で神聖な日とされる11日からガンジス川流域の北部の町、ハリドワールで始まりました。ガンジス川沿いには早朝からサドゥーと呼ばれる聖者や大勢の人々が集まり、川の水に頭までつかるなどして、もく浴し、祈りをささげていました。インドでは、新型コロナウイルスの感染者の累計が1100万人を超えていて、1日当たりの新規の感染者は今月に入って2万人を超える日があるなど感染拡大が続いています。地元政府は、今回の「クンブ・メーラ」について、期間を短縮するとしたうえで、参加者にはPCR検査の陰性証明の提出を求め、感染対策を徹底するよう呼びかけています。
(unquote)
自分はこの世界最大規模の巡礼とも言われる「クンブ・メーラ」を、2016年に聖地の一つであるウジャインで一度体験しているが、確かに大変な人混みとなる。コロナ禍で開催されたこの一大宗教行事で、どこまで感染対策が徹底できたのか、想像するに余りある。実際に3月25日の時点で、地元高裁は「クンブ・メーラ」の巡礼者に陰性証明を義務付けるに至っている。また、医療専門家はこの時期に宗教行事や選挙がらみの政治集会が各地で実施されたことが、コロナの第二波襲来の原因になっていることに言及し、モディ政権を強く非難した。
モディ政権のコロナ第二波に対する油断はそれだけに留まらない。インドで夏の到来を告げる風物詩、Holi(ホーリー)のお祭りが3月28日から29日にかけてインド北部を中心に祝われた。首都デリー警察はコロナ第二波を警戒して、公共場所での同お祭りを禁止、マハラシュトラ州政府も同様の指令を発令した、のだが。。このカラーフェスティバルとも呼ばれるお祭りは、人々は家から出てお互いに頭から全身に色とりどりの粉をかけてはしゃぐのが通例。この日に外出すると必ず誰かにカラー水鉄砲で攻撃されて、着ていた服に付いた色が落ちないので、毎年外出を控えていたが、今年はホーリー禁止令が出たので、安心して買い物に出掛けてみたら、街は静かでカラー鉄砲も見かけることはなかったが、やっぱりいた!いつものように全身に色を塗りたくった人達、ルールを守らない人はどこにも居る。
2021年4月1日、ムンバイ市行政当局は、コロナ感染者で自宅隔離が可能な条件として、(1)無症状であること、(2)中程度の症状であること(既往症がなく、発熱が37.8℃以下で血中酸素飽和度95%以上であること。) (3)既往症がある年配者で主治医の診察を受け、病院の医師による診断を受けた者であることを発表した。翌2日、当地プネ市長は「プネはインド全体で最も感染率が高く、一日の新規感染者数も9千人を超えた。」として、3日から7日間の「ミニロックダウン」を発令した。それによると午後6時から翌日朝6時までの間は、医療機関や薬局を除き、全てのサービスは禁止となる。学校も4月末まで閉鎖され、オンラインの授業に戻った。
2021年4月4日、友人宅を訪問した際に玄関先で見かけた「自主隔離中」という張り紙が陽性反応のあった家族に対して実施されていた。(写真参照)
2021年4月5日、地元新聞によると、マハラシュトラ州では直前の日曜日に57,074人の新規感染者が記録され、ムンバイ市はインド全国で最初に1万人を超えたと報じた。また、インド全土でも一日の新規感染者数が初めて10万人の大台に乘った、と報道していた。なお、ワクチン接種は1月中旬から、医療関係者、65歳以上の高齢者を優先的に扱っている。4月1日以降、これを45歳以上で拡大すると発表された。皮肉にもこの辺りから、新規感染者数が急増していくのである。モディ首相はインド国民に対し、コロナ対策の原点に返り対策ルールを徹底遵守するように呼び掛けた。
2021年4月10日、マハラシュトラ州政府は感染増加が著しいプネ地区において、週末(金曜日の夜6時から月曜日の早朝7時まで)の夜間ロックダウンを発令した。基本的に週末は薬局を除く全てのお店が閉まることになったが、ホームデリバリーはこれまで通り営業が許された。日曜日にはマハラシュトラ州全土に週末の夜間ロックダウン(金曜日の夜8時から月曜日の朝7時まで)が発令された。
2021年4月20日、JCCII(インド日本商工会)によると、4月22日の月例会で予定されていたDr. Prem Motwani氏(前出)の特別講演が延期になった。これは同氏が一回目のワクチン接種後、コロナ発症したことによる。同氏は回復に向かっているという。同氏の特別講演は6月に延期された。
2021年4月22日、昨年4月以来グジャラート州の自宅でオンライン留学しているMr. Ajay Devrukhakarからの連絡によると、実母が陽性反応となり、家族全員がPCR検査を受けた結果、本人も陽性であったとのこと。ただし、未発症のため自宅隔離するという。彼の妻と父親及び弟は陰性であった。このように自分の周辺にも陽性反応者や罹患者が増えてきており、ヒシヒシと感染の波が迫っていることを感じる。
2021年04月30日、ローカル紙の報道によると、インド自動車最大手のマルチ・スズキおよびスズキ・モーター・グジャラートは、急拡大する新型コロナウイルス感染症への治療に医療用酸素の不足が深刻化していることに鑑み、ハリヤナ州、グジャラート州の全基幹工場を5月1~9日の間、操業を一時休止すると発表 した。同社プレスリリースによると、スズキも操業のために酸素を使用しているが、同社に部品供給している部品メーカーは、より多くの酸素を使用するため、現在の新型コロナウイルスの感染状況において、これらの酸素は人命救助のために使うべきだとしている。インドでは医療現場での酸素不足が深刻化しており、スズキのグジャラート工場に近接するアーメダバード市郊外のマンダル日本専用工業団地においても、警察からメーカー各社に対して、工業用酸素ボンベを供出するよう協力要請がきている。
この辺りからインドの主要都市での医療崩壊が顕著に現れてくるのである。
(インドのカラーフェスティバル、HOLI、写真は昨年のもの)
8.直近の状況
2021年5月5日、ローカル紙の報道によると、以下の通り。(一部抜粋)
(quote)
インドでは「コロナ(COVID-19)」の感染が世界最悪規模で発生し続けており、死亡者数は22.2万人を超え、新規感染者数も毎日35万人を超えています。このため、ウイルスの蔓延を食い止めるため、全国的に厳しい監禁措置を取ることが求められていますが、昨年、経済的に壊滅的な打撃を受けたモディ政権は、これ迄の所、昨年の様な厳しい措置を避けています。ウォール街に本拠置く証券会社ゴールドマン・サックス社は、インドの経済成長率を2022年3月31日迄の会計年度で11.1%へと引き下げしました。多くの都市や州がコロナウイルスの感染拡大を防ぐため、様々な厳しいロックダウンを発表したためです。政府はウイルス管理制限を各州に委ねています。幾つかの州や市では、程度の差こそあれ、ロックダウンを実施しています。コロナ感染封じ込め政策が強化され、特にサービス業の高頻度データが打撃を受けています。一方、製造業では、電力消費に関する高頻度データや4月の製造業PMI(購買担当者指数)が安定しており、製造業の回復力が高いと見られています。労働市場に関する指標は、ここ数週間、日々の失業率は緩やかに上昇しているが、これ迄の所、雇用への影響は昨年4-6月に比べて遥に抑制されているとされています。「全体として見れば、殆どの指標は、昨年の第2四半期(4月~6月)に比べて、影響が予想より小さかった状況を依然として示唆している」とゴールドマン・サックスのレポートは述べています。同社によれば、新規感染例や陽性反応率は依然として非常に高いものの、現在進行中の症例総数の変化率にピークの兆しが見られるとの事です。ワクチンに関しては、5月3日現在、126百万人1回目、27.3万人に2回目のワクチンを接種済とされています。全人口の9.3%が少なくとも第1回の接種を受けているとの事です。また、政府は最近、ワクチンの対象者を拡大し、5月1日から18歳以上の全成人が接種出来る様になりました。「ワクチン供給量増加と対象人口拡大により、これ迄の(2022年3月に終わる)今年会計度第1四半期から第2四半期迄に全人口の3分の2に対しワクチン接種を完了出来る様になると予想」との事です。
(unquote)
2021年5月6日、この日インド全体の新規感染者数が414,188人と最高記録を更新したが、この後はピークアウトしている。この最終稿を執筆している本日6月30日現在は、48,878人にまで減少し、治療中のActive感染者数も529,580人(前日比14,138人減少)となっている。死亡者数も991人増と大きく減少しているが、増えていることに変わりはない。
2021年5月31日、マハラシュトラ州政府は,現在実施されているロックダウン措置を6月15日午前7時まで延長することを発表した。食料品等の店頭販売時間は,原則午前7時から午後2時まで延長された。(これまでは午前11時までであった) 但し、居住地域における陽性率や重症患者用病床の空き状況等により、店頭販売時間に関する規則が異なる可能性があるとのことだ。(在ムンバイ日本国総領事館領事部) その他の非生活必需品を販売する店舗(モール等を除く)については,各自治体当局の判断により上記時間(月曜から金曜)営業することが可能となる。(同上) 良かった!酒類の販売は再開されたことを確認した。それなら昨年のような禁酒生活を強いられることはない。6月30日現在、モールは再開されているものの、午後4時で全てのモールや商店は閉店となっている。
(本稿は関西日印文化協会が2021年8月15日発刊予定の「日印文化」インド共和国第75回独立記念特集号への寄稿文の元となる記録の全文を、同協会の了承の下、一部加筆修正して連載するものです。)
磯貝富夫プロフィール
1956年兵庫県尼崎市出身。1979年京都外国語大学卒、同年シャープ(株)入社。2016年シャープ(株)を定年退職するまで37年間に亘りグローバルビジネスに携わり、海外生活は延べ28年。現在は西インド、プネ市在住でインド滞在は11年目。日印関係フリーランスアドバイザーとして、インド企業のアドバイザー業務に携わり、プネ市の私立大学経営学部で非常勤講師として教鞭を執りながら、日本語と日本文化の教育振興にも貢献している。日印の将来の発展を目指して若者間の交流促進に最も注力し、東京大学インド事務所主管の留学生誘致活動である「留学コーディネーター委員会」のメンバーを務めている。今年4月から親日NPO団体であるIJBC(Indo-Japan Business Council)の顧問に就任。
更新日:2021.08.27