みやまの踊るマンゴーラッシー⑤

カーストってまだあるの?

こんにちは!みやまです。
今回は原点に戻って、インドのカーストについてお話ししたいと思います。

◎お品書き

1.カーストおさらい
2.3つの角度(生活・教育と仕事・結婚)から見てみる
3.カースト以外でインド社会を分けているもの
4.まとめ

◎はじめに

日本では中学校や高校の社会科で習うインドのカースト(身分制度)。
憲法では禁止されていると言われるけど、カーストってまだあるんでしょうか?

——あります。

実際、「この人は○○○のカーストの家に生まれた」という事実が、その人の人生をある意味、ほとんど決めている……という場合が今でも多いです。
私が2年間通ったインドの大学院で、一番初めに履修する基礎科目「社会を理解する」の1時間目のお題がカーストでした。そのくらい、カーストはインド社会の根幹を成している……と言っても過言ではありません。

このコラムでは、カーストがその人の人生にどんな影響を与えるのか……ということを中心に見ていきます。

1.カーストおさらい

基本的には、カーストとはインドのヒンドゥー教徒の中にある身分制度です。
その中で歴史的には、

バラモン(インドではブラフミン):神官階級
クシャトリヤ:王・武士階級
バイシャ:庶民階級(農業・商業など)
シュードラ:召使い階級

の4つのカースト、そしてそれよりも格下の

アンタッチャブル「不可触民」(もしくはダリット):死体の処理・汚物の処理・革の加工などを行う階級

がありました。
現在では、人々はもちろん上のような仕事・役目ではなくいろんな職業に就いていますが、それぞれのカーストの名前はそのまま使われています。

人々のカーストは苗字で分かります。
例えば、映画俳優にも多いカプール(Kapoor)という苗字は、カトリ(Khatri)カーストのグループに含まれていて、カトリはクシャトリヤのカーストの一つです。そしてカプールは、北インドのパンジャーブ出身のクシャトリヤの人たちの苗字です。

2.3つの角度から見てみる

①生活
日本でも、裕福な家に生まれるのとそうでない家に生まれるのでは、そもそも普段の生活がだいぶ違います。
同じようにインドのカーストに関しても、基本的には

上のカーストになるほど、裕福で豊かな暮らしをしている

というイメージです。
(そうでないケースももちろんあります。貧乏なバラモンの人たちだっています。)

そして、インドの場合、生活レベルの格差が非常に大きいです。
例えば、上のカーストの人たちは豪勢な一軒家や広々としたマンションで、家電に囲まれて日本人と変わらないような生活をしています。また、上の3つのカーストは、シュードラ(召使)カーストの家から来るメイドに家の掃除をさせます。家庭によっては掃除以外にも洗濯・雑用・料理もメイドがやります。

一方で、下のカーストの人達は、都市部ならウサギ小屋のようなスラムに、農村部ならば慎ましい家にほとんど家電もなく暮らしています。
(生活スペースの広さや衛生・自然など周りの環境に関しては、これも一概には言えませんが、農村部の方が都市部よりも暮らし心地がいい気がします。オリッサ州の農村実習に行ってみての感想。)

ムンバイのダラヴィ・スラムの横の川

②教育→将来就く仕事
これは都市部・農村部でも違いますが、上記と同じように裕福な家ほど子どもの教育に投資します。言わずもがな、学歴が高いほど収入の高い職業に就くチャンスがあります。

また、インドで多い傾向ですが、お金持ちの家の子どもほど英語が使えます。(英語が母語のコミュニティや、英語スピーカーが多い地域は例外として。)
それは、乳幼児の時から英語でコミュニケーションするプレイ・スクール(幼稚園のおちびさんバージョン)に通ったり、英語で教科を教える私立学校に通ったりするからです。それに、親もすでに英語ができることが多いので、こういう人たちは家庭でも英語で話したりします。

一方で、インドには「留保制度」(Reservation)というものがあって、歴史的に差別されてきた人たちに教育・就職(お役所)の門戸を開くのに一役買っています。
対象となっているのは、
・指定カースト(Scheduled Caste略してSC):アンタッチャブル(不可触民)出身の人々
・指定部族(Scheduled Tribe略してST):広いインドの各地にいる、いわゆるインド人(ヒンドゥスターニ)とは違う言葉・文化を持つ人たち
・その他後進階級(Other Backward Classes略してOBC):州によっても違いますが、4つ目のカースト「シュードラ」(召使階級)出身の人々です。

留保制度は、学校やお役所でこれらの人たちが入るための枠を設けています。カーストが下の方でも、この制度によって教育を受けて出世していく人々もいます。

③結婚
インドの人たちは「家族」をとても大事にします。
その家族を作っていく為の「結婚」が、インドでカースト制度を脈々と育んできたカギ。

インドでは、同じ地域の同じカースト出身同士でお見合い結婚をするケースが今でもとても多いです。
(最近でこそ、少しずつ恋愛結婚も増えていますが……。)
私の大学院時代のインド人友達も、卒業後次々と結婚していってますが、
「ムンバイの中の指定カースト同士で」(お見合い)
「ケーララ州の同じカースト同士で」(お見合い)
「キリスト教徒同士で」(恋愛)「イスラム教徒同士で」(どちらか不明)
など、同じコミュニティの中での結婚が圧倒的に多いです。
このように、立場・境遇が似た者同士で一緒になることで、自分たちのカーストや宗教を守っていると言えるのではないでしょうか。

大学院のお医者さん(明らかに上位カースト)の息子さんの結婚式

3.カースト以外でインド社会を分けているもの

これはおまけ的な話ですが。
上にも少し出てきた宗教。これもインドの中でカースト的なもの(人々のアイデンティティ・文化を決定づけているもの)です。
インドにはヒンドゥー教意外にもいろんな宗教がありますが、その中でもヒンドゥー教徒vs.イスラム教徒の対立は、しばしば映画の題材にもされるくらい明白です。(と言っても、普段街では両者は共存しています。政治的な事件が絡むと、暴動とか危険になってくるイメージ……。)
あとは、先に少し触れた部族(トライブ)も独自の文化を持っていて、明らかにインド文化とは一線を画しています。

4.まとめ

ここまで長い記事にお付き合い頂いてありがとうございました。
昨今でこそ、日本でも外国籍の人たちに会う機会が増えてきましたが、それでも日本はいまだに「日本人顔で」「日本語がしゃべれて」「日本人として一定の価値観を持っていて」……という、島国ならではの単一的な文化に親しんできました。
それに比べたら、インドはカオスです。「30個くらい違う国がくっついたような国」という表現は言い得て妙です。
しかし、そんな多様な人々の集まるインドで、カーストや宗教・部族はその中で人々が「居心地のいいスペース」を作る為のシステムなのかもしれません。ひとが何かを核にして固まるときは、その対照もまたできてしまうことも添えておきつつ……。

プロフィール:みやま

インドブロガー。千葉県在住。
2012〜14年にインド政府奨学金でムンバイのタタ社会科学研究所(TISS)ソーシャルワーク修士課程に留学。
ただ今、2019年に出産した第1子の子育て中。いずれは子ども福祉に関係する仕事をしたいです。
ブログ『いんきょ〜インドがわたしの第2の故郷!〜』
https://miya-in.net/

更新日:2020.02.12