華麗なるインド⑧

第8回:「ニルヴァーナ ニューヨーク」(NIRVANA New York)―絶品のローガン・ジョーシュが食べられる

 

美術館の帰りにふらっと立ち寄った店で、まさか絶品のローガン・ジョーシュが食べられるとは思っていなかった。スパイシーなマトン料理で、カシュミール料理を代表する一品だ。これについてはあとでたっぷり語ることにして、まずはこのレストランを紹介しよう。東京ミッドタウン六本木にあるニルヴァーナ・ニューヨークというインド料理店。ニルヴァーナはサンスクリット語で涅槃を意味し、解脱することを炎が風でふっと吹き消される様子に喩えたもので、たいへん厳かな意味なのだが、普通は死を連想させるので料理店などの名前には用いない。

 

しかし、ニューヨークという言葉が付くと、ニュアンスがまったく異なってくる。アメリカではビートニクの詩人アレン・ギンズバーグが60年代のインドで火葬を手伝ったりしてヒンドゥー教の息吹に触れたり、80年代から90年代にかけてロックバンドのニルヴァーナが大流行したりで、この言葉は新しいファッション感覚で受け入れられた。ニルヴァーナ・ニューヨークは1970年にダッカ出身で交換留学生として渡米した青年がマンハッタンに開いた店で、数々の賞を受賞するなど本格的なインド料理店として人気を得ていたが、建物が老朽化したため2002年に閉店し、新たに六本木に開店することになったという。

店内は外国人も多くニューヨークにいるよう。

カレー・ビュッフェの並べ方も洗練されている。

 

私が入ったのはランチビュッフェで、5種類のカレーが選べる。定番のバターチキン、ホタテなどがいっぱいのシーフードカレー、何種類かの豆を挽いたダールカレー、南インド料理のラッサムスープ、もう一品は日によってチキンカレーだったり、骨付きのマトン(ラム)であったり、鹿肉のキーマカレーだったりするようだ。今までランチに4回行ったが、こんな感じである。大皿を取って並び、それにまず小さな器を2、3のせて好きなカレーを盛る。さらにサフランライスと小ぶりなパーパルを数枚取って席に戻る。サラダの種類が多いので別の大皿に取ってきたほうがよいだろう。ナーンは焼き立てを席に持ってきてくれる。アイスチャーイなどの飲み物もデザートも種類が豊富だ。あとはお腹が一杯になるまでひたすら行き来するのみである。

 

さて、ローガン・ジョーシュだが、これはランチビュッフェとは別で、基本はディナー・メニューである。最初に訪れたときには、たまたまランチのときにも対応できるというので作ってもらえたが、2回目、3回目のときにはローガン・ジョーシュがメニューから消えていた。それで店のマネージャーさんに熱烈にリクエストしたところ、4回目のときには久し振りにスパイシーなローガン・ジョーシュを用意してもらえた。感謝である。

左が絶品のローガン・ジョーシュ。ナイフを入れるとホロホロと肉が剥がれる。

右は5種類のカレーからまずは2品選んだ器とパーパル。

 

ローガン・ジョーシュとの出会いは、二度目にカシュミール地方のスリナガルを訪れた35年くらい前のときだった。あまりの美味しさに、毎日連続で食べていた。ニンニクとショウガ、クミン、カーダモン、シナモン、ローリエなどのグレイヴィーの海に、蒸し煮されたマトンが浸っている。グレイヴィーに少し赤みがあるのは、アルカネット(牛の舌草)というハーブの花か根を乾燥させたものを使うそうである。乾燥したカシュミールの高地で食べる、酸味と甘味が混ざったまったりとした濃厚な味がたまらない。それ以来、日本でもローガン・ジョーシュを供するレストランを探しているが、非常に少ないうえに、これだという味に出会わない。けれど、この店のローガン・ジョーシュを食べていると、インドにいるような感じがしてくる。

 

4月23日に、初の姉妹店「ニルヴァーナ 東京」(Curry & Biriyani NIRVANA TOKYO) が、東京駅八重洲地下街にオープンするそうだ。ここではメニューの定食(ターリー)にローガン・ジョーシュが載っているので、本店のより小振りだが、いつでも食べられると思うと、今から楽しみである。

(宮本 久義 記:2025年4月17日)

 

 

Information:

・「ニルヴァーナ ニューヨーク」(NIRVANA New York)

〒107‐0052 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア ガーデンテラス 1F

予約・お問い合わせ:03-5647-8305

営業時間:施設の営業時間に準ずる

ランチブッフェ営業時間:11:00~14:30(最終のご案内) クローズ 15:30

※土日祝日は2時間の時間制

料金は細かく分かれているので、HPで確認のこと

ホームページ:https://nirvana-newyork.jp/

 

・「ニルヴァーナ 東京」」(Curry &Biriyani NIRVANA TOKYO)

〒104-0025 東京都中央区八重洲2-1

八重洲地下街 南1号 カレーカルテット

予約・お問い合わせ:03-6910-8808

営業時間:11:00 ~ 21:30(L.O)

 

 

宮本久義 略歴

1950年、東京浅草生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了後、1978年より7年間バナーラス・ヒンドゥー大学大学院哲学研究科博士課程に留学。1985年、Ph.D.(哲学博士)取得。2005年~2015年、東洋大学文学部インド哲学科教授。2015年から2020年3月まで大学院客員教授。現在、国際仏教学大学院大学、東方学院において教鞭をとっている。専門分野は、インド思想史、ヒンドゥー宗教思想。主な著書に『ヒンドゥー聖地 思索の旅』(山川出版社、2003年)、『インドおもしろ不思議図鑑』(共編著、新潮社、1996年)、など。

更新日:2025.04.23