華麗なるインド⑥

第6回 「タンジャイミールス」 ― スパイス遣いの達人が作る南インド伝統の味

東京・幡ヶ谷にある「タンジャイミールス」は、2023年1月にオープンした南インド料理レストランだ。「タンジャイ」とはタミル・ナードゥ州の古都タンジャーヴールの呼称で、当店のシェフであるカルナニディ・シャンカー氏の故郷である。

訪れた日は、シヴァ神の祭典であるマハーシヴァラートリ(シヴァ神の大夜祭)であった。

客はプージャー(礼拝)に自由に参加でき、その後に限定のバナナリーフミールスが提供されるというイベントだ。黄色や水色の壁の鮮やかな店内の一角には祭壇が作られ、果物や花など供物が置かれている。準備が調うと、シャンカー氏が祭壇に向かう。儀式が進むに従って、店内にお香とココナッツの香りと煙がもうもうと満ちていく。彼は火を点したお盆を持って参加者の中を回ってくれ、みなその煙を自らの頭にかけるように扇いだ。そして、額にはプージャーに参加した印をつけてもらった。

シヴァ神に食事が捧げられて儀式が終わると、スタッフが数人がかりで各席を回り、客席に敷かれたバナナリーフの上に次々と料理をサーブしてくれる。品数は13種類、インドの神事では不殺生を守るため全てヴェジ(菜食)である。ミールスは素晴らしく、各食材に合うスパイスの遣い方に驚かされた。また、野菜や豆の滋味を味わうようなものもあれば、バリッと辛味を効かせたものもあり全体のバランスも圧巻だ。

印象的なものとして、シヴァ神の好物であるスィーラランガリコランブ。ムーングダールをペーストにして固めて1.5センチ角程度に切り、さっと揚げ、タマリンドで酸味を出したグレイビーと合わせたものだ。また、豆のコロッケのようなタバラ・ワダ。ウラドダールや米を浸水してすりつぶし、丸めて揚げている。外側はガリっと、内側はウラドダールらしいもっちり感。クリーミーな茄子のパチャディ(皮を剥いた茄子をスパイスと共にペーストにしたもの)をつけるとことさら美味である。

そして、タンジャーヴールは南インド有数の米所。ポンニライス(南インド原産の中粒米)がおいしい。おかわりのため各席を回ってきてくれたシャンカー氏に感想と感謝を告げると、お忙しい中にこやかに会話してくれた。

今回は特別メニューだったが、通常はミールスやドーサ、土日はビリヤーニーもある。ディナーメニューは特に興味深く、ティファン、パロッタ、スイーツ、他店では無いような珍しいものもある。パロッタ食べ放題など面白い企画が催されることもあり、目が離せない。

現在、東京に南インド料理店は数多あるが、郷土色のある料理や未だ日本では紹介されていない料理を、宗教や文化と共に伝えてくれる店は稀有である。

(田尾祥菜記)

 

幡ヶ谷の商店街の二階にあるお店。看板にはタンジャーヴールの名所、

ブリハディーシュヴァラ寺院のシルエットが描かれている

 

プージャーを行うシェフ、シャンカー氏

圧巻のバナナリーフミールス

 

Information:タンジャイミールス(THANJAI MEALS)

予約・お問い合わせ:03-5352-8055

〒151-0072 東京都渋谷区幡ケ谷2-7-10 松本ビル 2F

営業時間:11:00~15:00(LO14:30)、18:00~22:00(LO21:30)

定休日:無休  全席禁煙

カード可(VISA、Master)、電子マネー不可、QRコード決済可(PayPay、d払い)

ホームページ:https://thanjai-meals.jp/

 

田尾祥菜 略歴

1991年徳島県生まれ、東京都在住。

間借りスパイス料理屋「Spiceネコヤシ」として不定期に出店を行う。

文化・宗教観が見える伝統食を尊重しながらも、日本の気候や食材に合った新たなインド料理の創作を行う。

キッチンスタジオペイズリー インストラクターコース修了。

更新日:2023.03.16