華麗なるインド⑤

第5回 「ダバ インディア」 ― 洗練された南インド料理の店

私の授業を聴講しに来てくれていたヨーガの先生に、「南インド料理のおいしい店があるから」と誘われて行ったのが、このダバ インディア。そのあと家内の親友から、「最高にうまい南インド料理店があるから」と誘われたのが、二度目のダバ インディア。そのあとまた、という具合で、とにかく口コミで大人気なこの店、実は私の25年ほど前のヒンディー語の生徒さんの宮﨑千里さんが旦那さんの陽さんとともにオーナーを務めている。当時のことはありありと覚えている。これからインド料理店を開くのでコックさんを探しにインドに行ってきます、と授業を休んで出掛けて行った。それからしばらくたった1994年に、銀座一丁目の「グルガオン」の開店案内をいただいた。その後、写真家・松本栄一さんとの共編著『インドおもしろ不思議図鑑』(新潮社、1996)を出す際、カレーの頁を千里さんにご執筆いただいた。「ダバ インディア(Dhaba India)」はインドの大衆食堂(ダーバー)というほどの意味で、主に北インド料理を食べさせる「グルガオン」に対して、南インド料理を供する姉妹店として2003年にオープンした。

さて今回は4名で訪れ、以下の料理をシェアすることにした。
「ダバ・ミールス」(南インド式カレー定食)、「ナスとオクラのタマリンドカレー」、「バター・パニール・マサーラー」、「マサーラー・ドーサ」、「ひよこ豆と玉ネギのサラダ」。
「ダバ・ミールス」は大皿に盛られた定食で、真ん中にバースマティー・ライスが鎮座し、その横に揚げパン状のプーリーがプレーンとホウレンソウ風味のとで二枚、ちょうど食べやすい量になっている。その左から時計回りに、まずサンバルとラッサムが並ぶ。南インドの味を形作っているラサ(汁物)二品で、インドではお替わりが自由だが、酸味と辛さが強くてお替わりどころか半分くらい残してしまう。けれどこの店のものは実に微妙に、つまり日本人を含む外国人向けに味付けされていて、スルリと喉をとおる。次に並んでいるのが野菜の揚げ物料理ポリヤル、その隣りはパーパル(パパド)である。パーパルの食べ方は、食事の最後のころに、ライスやおかずを混ぜてその上にパーパルをパリパリ砕いて載せて食べるのがインド流だが、最近はインド人でもビールのつまみとして最初に食べる人が多くなった。パーパルの陰になった一品はたしか海老カレー。その隣りはココナツ風味の白身魚の料理だったように思う。最後はしっかりと味付けされたチキンカレー。これだけでも満腹である。

単品で頼んだ「ナスとオクラのタマリンドカレー」はマイルドな仕上がりだが、個人的にはタマリンドの酸味はもう少し濃い方が好きだ。「バター・パニール・マサーラー」は口中を幸福で満たしてくれる味。「マサーラー・ドーサ」のマサーラーはスパイスという意味。ドーサあるいはドーサイというのは南インド料理のレシピで、ケツルアズキに水をたっぷり吸わせたものをペースト状にすりつぶし、一晩かけて発酵させ、鉄板でクレープのように焼いたもの。サンバルとココナッツ・チャトニー(チャツネ)をつけて食べる。50年ほど前のデリーではドーサを食べさせてくれるレストランは数えるほどしかなかったが、今では世界中で食べられるようになった。薄皮の形はレストランによって異なる。私のインドの先生の一人が南インド出身で、奥様の手料理をよくいただいたが、家庭では大きなドーサを焼く道具がないので、フランスのクレープに似た三角形に小さくたたまれた形のものだった。チャパーティーのように焼き上がりのものをいろいろなチャトニーにつけて食べているうち、20枚くらい食べてしまった。しかし、さすがにダバ インディアのドーサは王道を行くもの。色も形も完璧であった。

最後にチャーイを頼むと、店員さんがカップからソーサーへ、またソーサーからカップへと滝のように流して、紅茶とミルクと店内の空気をほど良くブレンドしてくれる。インドの味と日本人の舌をとことん追求してたどり着いた味覚、それを提供してくれるのがダバインディアである。
(宮本久義 記)

 

青の色調で決められた外観。右の壁龕にガネーシャ神が祀られているのが招き猫のよう。

 

「ダバ・ミールス」の大皿を中心にして、
左上「ナスとオクラのタマリンドカレー」と、
右上「バター・パニール・マサーラー」

 

マサーラー・ドーサ。クレープ状の筒の中間あたりに具が入っている。

Information: ダバ インディア(Dhaba India

予約・お問い合わせ:03-3272-7160

104-0028 東京都中央区八重洲2-7-9 相模ビル1F

営業時間:月曜~金曜11:1515:00L.O 14:30)、17:3022:30L.O 21:30

土曜・日曜・祝日11:3015:00L.O 14:30)、17:0022:00L.O 21:00

定休日:無休

完全禁煙:入口の外側に灰皿あり

ホームページ:http://www.dhabaindia.com/

宮本久義 略歴

1950年、東京浅草生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了後、1978年より7年間バナーラス・ヒンドゥー大学大学院哲学研究科博士課程に留学。1985年、Ph.D.(哲学博士)取得。2005年~2015年、東洋大学文学部インド哲学科教授。現在、東洋大学大学院客員教授。
専門分野は、インド思想史、ヒンドゥー宗教思想

 

更新日:2019.12.27