書籍紹介:『般若心経手帳』『ワイド判 般若心経手帳』
『般若心経手帳』
平山郁夫 画、中村元 訳、堀内伸二 編著
東京書籍株式会社、2010年8月
(https://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/80444/)
『ワイド判 般若心経手帳』(サイズを一回り大きくしたワイド判)
東京書籍株式会社、2021年2月
(https://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/81482/)
………………………………………………………………
日本において、もっとも多くの書物が著されている仏教聖典は、おそらく『般若心経』でしょう。
したがって、形態の面においても、写真やCDを伴うものなど、もはやおよそ考えられる形は出尽くしたのでは、と思われるほどです。その中で、あえて本書が編まれたのには、理由があります。それは、「般若心経を常にそばにおいて人生のともに」をコンセプトに、ポケットに入れていつでも手にできるよう手帳形式とした、という点です。
味わいつくせぬ妙味ある経典は、一度読めばそれで終わりというものではありません。読み、味わうほどに輝きを増すものであり、玄奘三蔵がそうしたように、常にそばにあって欲しいものです。
また本書は以下の特徴があります。第一点は、日本画の最高峰・平山郁夫画伯の絵を用いること。二点目は、『般若心経』のサンスクリット原典の和訳には、学的にもっとも権威のある中村元訳に拠ること。そして最後は、随意な解釈ではなく、経説を正しく理解できるよう、原典を参照しつつ玄奘三蔵の漢訳の一句一句を正確に解釈すること、です。
十五年間おそばにお仕えし、中村先生の最晩年の謦咳に触れさせていただく機縁に恵まれ、先生の学的業績はもとより、その偉大さを支えていた先生の生き方を目の当たりにしてきた者としては、先生の和訳が「人生のとも」となるべき本書に入るのは、あまりも当然のことでした。
また、平山画伯はシルクロードの各地を訪ねられ、『般若心経』を『大般若経』とともにインドから長安に持ち帰った玄奘三蔵を描いた「仏教伝来」で画壇に登場されて以来、仏教とシルクロードを主題とした多くの作品を残されました。先生のご生涯は、釈尊と玄奘三蔵に導かれての「絵道」とも言うべきもので、その作品は、今も私たちを魅了してやみません。
もともと仏教の経典は、現に生きている人を導き救うために、悟りという、ほんとうの現実を確かに見ぬいたブッダによって説かれた教えです。それは決して寺院にだけあるものではなく、日々の生活にいきいきと生きているべきもののはずです。ですから、できるだけ凡夫の私情を交えぬよう、教えの筋道がしっかり追え、教説がおのずと心に入ってくるよう努めました。しかも短時間で読めるよう、できるだけ短いすっきりした言葉で。
一流の和訳と、求道心から描き出されたすばらしい絵を目にされながら、本書が、少しでも役立ち人生の糧となることができたならば、編者として、これほどありがたいことはありません。
(紹介者:堀内伸二)
『般若心経手帳』
『ワイド判 般若心経手帳』
更新日:2021.07.06