書籍紹介:『現代ネパールを知るための60章』

『現代ネパールを知るための60章』(エリア・スタディーズ)

公益社団法人 日本ネパール協会 (編)
明石書店、2020年
https://www.akashi.co.jp/book/b512240.html
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ネパールと聞けば、世界最高峰のエベレストを始めとするヒマラヤの山々を思い浮かべる方が多いでしょう。登山がブームとなっていた昭和の時代、日の丸登山隊の快挙を伝える報とともに、ネパールという国名を耳にして、どんな国なのだろうか?と想いを馳せた人も少なくないに違いありません。実際、山をきっかけにこの国に興味をもち、そこからどんどんこの国の魅力にハマってしまった、という人もきっといるはずです。

南にはインド、北には中国と、二つの大国に挟まれた山間の小国ネパールは、多様な山岳民族の文化が入り混じり織りなされた、非常に濃密な習俗と芸術の伝統を現在に伝える文化の国でもあります。

そのネパールの自然と文化の魅力を余すところなく伝えるガイドブックの決定版がこの一冊、『現代ネパールを知るための60章』です。「エベレストに見るネパールの登山とトレッキングの将来」、「変わるネパールの観光」、「王制廃止後の宗教状況」等々の60におよぶ多彩なテーマを、各分野の専門家が分担執筆。ネパール文化研究の第一人者、石井溥先生監修のもと、この国が世界に誇るところ、逆に苦しみもがいているところ、、、そうした一切合切を詰め込んで、「ネパールの今が分かる」一冊にまとめ上げています。

ネパールはこの20年で大きな変貌を遂げています。2001年に起こった大変な親日家であったビーレンドラ国王一家の殺害事件(米澤穂信さんの傑作ミステリー『王とサーカス』の題材にもなりました) 以来、政治状況は混乱を極め、王政の廃止から共和制への移行、憲法制定とその下での初めて民主議会の招集。それらに伴う経済構造の変化。さらには2015年の大震災による社会インフラや観光資源への壊滅的ダメージの後遺症など、社会情勢は目まぐるしく変化しました。

今回の新版では、2000年の発刊以来、好評を博してロングセラーを続けている前著『ネパールを知るための60章』の、“古くて新しい国ネパール”を丸ごと紹介しようというコンセプトはそのままに、前著発刊以降に起こった、上記のような様々なドラスティックな変化の帰趨を丹念に拾い上げて伝えていく、ということを念頭に置きながら編集を進めました。(書名下のリンクから全60章の「目次」を見ることができます)

本記事の執筆者(佐々木)は、主に文化・宗教の記事を集める「X 伝統と信仰」のとりまとめを担当。まず考えたのは、ネパールの宗教といえば仏教ばかりがとり上げられるなかで、本書では、ネパール最大の信徒人口を持つヒンドゥー教にも光を当てようということ。執筆者には、インドのヒンドゥー教との違いにも触れてもらいました。日本人の関心の高い「仏教」についても、なるべく独自性のある切り口を、と考え、仏教とヒンドゥー教の融和の象徴となっている「観音信仰」や、文化遺産としても重要な「サンスクリット語写本」を取り上げて、“ネパールの仏教”の紹介となるよう意を用いました。

巻末には項目執筆者たちが推薦するブックガイドも付し、この(入門書としてはいささか詳しすぎる)概説書を読み終えた後に進むべき、「次の一冊」の案内も万全です。

前著の良いところ、足りなかったところを踏まえて、いろいろ工夫をこらした結果、本書は、現代ネパールを紹介する書籍としては、内容の新鮮さ、充実度の面で群を抜いたものになったと自負しています。ネパールの今を知りたいと願われるすべての人に、自信を持ってお勧めしたい一冊です。

(紹介者:佐々木一憲)

 

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『王とサーカス』

『ネパールを知るための60章』

更新日:2021.07.06