日本寺inブッダガヤ 今昔・あれこれ④

仏教が繋ぐ日本とインドの文化交流を多面的にご紹介するこのコーナー。今回は若き僧侶、安孫子稔章師による最新のインド巡拝紀行をお届けします。

文中にもありますが、このコロナ禍が騒がれだす寸前に紙一重で渡航してこられた貴重なリポートでもあります。次世代を担う若き僧侶が見た、釈尊の七大聖地の様子をご一緒に体験してみてください。

釈尊七大聖地巡礼の旅

江東区 正覚院 副住職
安孫子稔章

世界中が空前の新型コロナウィルス禍に包まれるほんの少し前、本年2月12日から20日まで「釈尊七大聖地巡礼の旅」と題し、私が所属する浄土宗青年会の僧侶仲間計18名でインド仏跡巡りへ行ってまいりました。今回は印度山日本寺駐在経験のある先輩僧のご紹介をいただき、簡単ではありますが、そのときの紀行文を書かせていただきます。

初日、成田空港にて結団式を終えて出発。約10時間のフライトを経て、17時頃無事デリーに到着。そのまま市内のホテルに宿泊しました。2日目、国内線でデリーからベナレスへ飛び、そこからいよいよ仏跡巡り(と長いバスの旅)がスタート。初めに訪れたのは初転法輪の地サールナートでした。著名なダメークストゥーパの前で勤行の後、聖地の有り難みを噛みしめながら行道にて右遶三匝いたしました。

3日目、朝からガンジス川へ赴き船に乗りながら沐浴風景を見学。THEインドと言わんばかりの風景と綺麗な朝日に圧倒される一同。現地ガイドのマダンさんから沐浴を勧められましたが、挑戦する猛者はいませんでした。健康第一です。朝食後、ブッダガヤへ向けて出発。長い道のりを順調に進み、夕方頃に到着。しかし、なんとちょうどその日大菩提寺に参拝にいらっしゃったタイの王女様と鉢合わせるというまさかのハプニングで、大塔の見学は明日へ持ち越しに。スジャータ村と尼連禅河を見学しました。

4日目、涅槃会正当のこの日は、ブッダガヤ印度山日本寺御本堂にて、旅のハイライトとなる涅槃会法要を執り行いました。当日朝、まずは大菩提寺に皆で参拝。各国の仏教徒の方々が大塔の下へ一同に集まり、一心不乱に礼拝を捧げる姿を目にし、まさに聖地に来たという実感がこみ上げると同時に、世界中の人々が心一つに繋がることのできる仏教の偉大さを改めて思い知った瞬間でした。気持ちを引き締めて、菩提樹前にて勤行させていただきました。その後、日本寺へ伺い、いよいよ涅槃会法要の開式です。釈尊への報恩感謝の気持ちを込め、一生懸命お念仏をお称えしました。釈尊成道の地で涅槃会正当の日にお勤めさせていただけるご縁に、感謝の念で胸がいっぱいになりました。近隣のチベット仏教・上座部仏教寺院の僧侶の方々にも御随喜いただき、無事厳かにお勤めすることができました。法要後のサンガダーナでは、短い時間でしたが貴重な国際交流を果たすこともでき、大変貴重な経験となりました。素晴らしいご縁を提供していただいた日本寺様にこの場を借りて心より御礼申し上げます。午後はラジギールへ。釈尊が『無量寿経』『観経』を説いた場所とされる霊鷲山の香室にてお勤めさせていただきました。一日の最後は、西方へ沈む夕日へ向かって日想観のお念仏を皆でお称えしました。

5日目、釈尊最後の旅路を辿るように移動開始。釈尊お気に入りの地と知られ仏舎利が納められたヴァイシャリ、世界最大とも言われるストゥーパの残るケサリヤを見学し、夕刻クシナガラへ到着。まさに沙羅の林の夕まぐれの中、涅槃堂内にてお勤めいたしました。

6日目、ここまで驚くほど順調に進んでいたバスの旅でしたが、この日は少しペースダウン。ルンビニへ向かいましたが、国境のイミグレーションに長蛇の列が。今は審査が大変厳しいらしく、団体客と重なってしまったこともあり、国境越えに2時間ほど取られてしまいました。やっとの思いでインド出国を果たすと、ネパール入国は拍子抜けするほどあっさり通過。夕刻、釈尊生誕の地ルンビニへのお参りを無事果たすことができました。ホテルに戻ると、日本食のおもてなしが。久々のお味噌汁との対面にややホッとする参加者の顔もありました。

7日目、仏舎利が納められたラーマグラハを見学した後、再びインドへ入るべく国境の町へ。しかし、この鬼門は今日も簡単には通してくれません。やはり2時間ほどバスの中で待ちぼうけ。時間を持て余した先輩僧は、道行く土産売りの持っている人の背丈ほどもある大きな風船に興味を抱き、物は試しと一つ購入しました。が、日本に帰って膨らませてみると、全然大きくならずすぐに割れてしまったそうです。どうやら詐欺のようなので、皆さんお気をつけください。さて、ようやくインドへ再入国を果たした一行は、インド側のカピラ城跡と伝えられるピプラワの見学を予定していたものの、タイムアップによりあえなく断念。まっすぐサヘート・マヘートへと向かいました。釈尊が最も多く安居されたと伝えられる祇園精舎の香室にて、一同声高らかに『阿弥陀経』一巻を読誦いたしました。

8日目、無事七大聖地の巡礼を終えた一行は、空路デリーへ。バスの中から市内見学し、これまで一週間みてきたインドとは異なる都会を感じながら、最後はデリー国立博物館へ。ここには昨日行けなかったピプラワのストゥーパに納められていた仏舎利が所蔵されているとのこと。しかし、なんとここで再びタイの王女様と鉢合わせ。厳戒体制が敷かれ始める中、急いで館内を移動し、メインの仏舎利はしっかりと拝ませていただきました。長いようであっという間だった旅を終え、9日目朝、無事成田空港へ到着しました。

今回の研修旅行へ向けて、青年会で計4回の勉強会を開催し、普段意外と学ぶ機会の少ない釈尊の生涯や教えについて勉強し、準備してまいりました。今回、晴れて釈尊の足跡を現地にて肌で感じることができ、我々青年僧侶にとってかけがえのない経験となりました。また、予想に反して奇跡的にも誰一人として体調不良者を出さず、心からインドを楽しむことのできた今回の旅は、大成功といってよいのではないでしょうか。

帰国後、あっという間に世界が大変な事態となってしまい、私たちの生活も様変わりしてしまいました。インドを旅したのがなんだか随分と前の出来事のように感じています。インドは世界的に見ても最も感染者数の多い地域の一つとなっており、いまは端から見守ることしかできませんが、大変心配しております。この難局をどうにか乗り越え、再びインドを訪ねることができる日が来るのを心より願っております。皆様のご健康を祈念申し上げ、結びとさせていただきます。

更新日:2020.09.01