新連載・華麗なるインド

宮本久義

お勧めのカレー料理店を教えて下さい、とよく尋ねられますが、人の味覚はそれぞれ微妙に違うのでいつもなかなか答えられません。それに現在日本には美味しいカレー料理店が選びきれないほどたくさんあります。それでもできれば自分が気に入ったお店をご紹介したい。というわけで、有名・無名にかかわらず、ここには是非足を運んでご自分の舌でカレーなる味を堪能していただきたいというお店を取りあげる企画を立てました。

みなさん。みなさんお薦めのカレー料理店情報をご投稿ください。ここは、華麗(カレー)なるインドを思う存分、こころのままに語り合う自由な広場にしたいと思います。

なお、投稿される際には、スペースの関係もありますので、文書1000字以内、写真は、3枚以内(簡単なキャプションも付けていただければと思います)でお願いします。

 

第1回 「AJANTA(アジャンタ)」 ― 南インドの家庭料理の味を守り続ける老舗

1回は、東京・麹町にある「アジャンタ」さん。入口の赤い扉と幸運を呼ぶガネーシャ神などが置いてある内装が素敵で、日本にいることを忘れそうになります。定番のチキン・カレー、マトン・カレーはもちろん絶品ですが、40年ほど前にまだ九段にお店があった頃にいだだいたキーマ・カレーの味は衝撃的でした。今では誰でも知っているメニューですが、当時こんなカレーを食べさせてくれるところはありませんでした。

アジャンタの最大の魅力は南インド料理のバラエティーがほぼ全て味わえることです。それもそのはず、ホームページを見ると、創業者のジャヤ・ムールティ氏は南インドの出身です。先に日本に来て貿易会社を開いていた長兄ラーマ氏の後を追って1940年に来日。東京工業大学で学んだあと日本人の女性と結婚し、電気技師として日本の会社で働いていました。あるとき、鶏を手に入れたので、奥様に故郷のチキン・カレーを作ったところ、奥様は今までに食べたことの無い、鶏肉の旨みがスパイスと絡み合った味に衝撃を受けたそうです。これがきっかけで、1957年(昭和32年)、阿佐ヶ谷の実家で「カレーと珈琲の店 アジャンタ」を創業し、1961年(昭和36年)には九段に移転して、連日大勢のお客さんで賑わうことになりました。

この店には私もよく足を運びましたが、カレー以外にサーリーや線香などインドのお土産が販売されていて、インドの匂い満載でした。麹町に移ったのは1985年で、現在は二代目のアーナンド・ジャイラーム・ムールティ氏が引き継ぎ、年中無休で美味しい純インド料理を提供しています。

ちなみに、アーナンド氏の伯父のラーマ氏は、第二次世界大戦中に日本の援助のもと自由インド仮政府を樹立し、インド独立連盟総裁とインド国民軍最高司令官となったスバーシュ・チャンドラ・ボース氏を支援していました。また、ボース氏の死後、ラーマ氏とジャヤ氏がその遺骨を長いあいだ預かることになりましたが、それらの詳しい経緯を知りたい方はアジャンタのホームページをご覧下さい。美味しいカレーを食べながら日印交流の歴史に思いを馳せるのも一興です。(宮本久義)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本テレビ通りに面した麹町のお店のおしゃれな外観

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手前から時計回りに、マトン・カレー、キーマ・カレー、チキン・カレー。奥はナーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九段のアジャンタの店先で記念写真に収まる創業者のご家族

 

Information: AJANTA(アジャンタ)

予約・お問い合わせ:03-3264-6955
〒102-0084 東京都千代田区二番町3-11
営業時間:月曜~土曜  10:00~23:00 L.O、日曜・祝日  10:00~22:00 L.O
年中無休(ランチタイムは16:00まで)

 

宮本久義 略歴

1950年、東京浅草生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了後、1978年より7年間バナーラス・ヒンドゥー大学大学院哲学研究科博士課程に留学。1985年、Ph.D.(哲学博士)取得。2005年~2015年、東洋大学文学部インド哲学科教授。現在、東洋大学大学院客員教授。
専門分野は、インド思想史、ヒンドゥー宗教思想。

 

更新日:2019.02.04