価値を求める文化交流

日印文化交流ネットワーク世話人
荒木重雄

当「学ぶ・知る」欄に、丸山弘子(全仏婦人連盟常務理事)さんが書かれた「『持続可能な開発』ってなんですか」が掲載され(2020.1.24)、続いて竹中千春(立教大学教授)さんの筆になる「3人のインド人女性」が掲載された(2020.3.27)。

この二つの論稿は、当欄および当ネットワークにとって極めて重要な、画期的な意義をもつ寄稿と思われる。

国際的な文化交流の意義は、互いに相手国の文化や社会を知って共感するだけにはとどまらない。じつは、自国や相手国の社会や歴史、文化を踏まえながら、ともに、人類にとってのあるべき、望ましい価値を求め、その実現に努めることにこそあるからである。

すなわち、すべての人に人間としての尊厳や真の豊かさや安らぎや公正が、自然との調和のうえに保障される社会の実現に向けて、国籍を超えてともに歩むことである。

そのような国際文化交流のあるべき姿を、丸山さんは、「持続可能な開発(SDGs)」という目標を掲げ、その実現に向けての協働の呼びかけというかたちで示した。そして竹中さんは、丸山さんの意思を励ますかのように、その目標に向けて三様の歩みをするインドの3人の女性の軌跡を描いている。

インドには、「持続可能な開発」として括られるような、自然と人間の共存や、人間の尊厳や公正な社会のための闘いの事例は、無数にある。たとえば、1970年代初め、無謀な森林伐採に抗して、女性たちが樹木に抱きついたり自らの身体を樹に縛りつけたりして森を守ったチプコ運動、80年代後半以来、聖地も動植物も人々の暮らしも水底に沈める巨大ダム開発と闘ってきたナルマダ川流域の先住民の運動、あるいは、自然を慈しみ生命の尊厳を守る闘いを展開した女性環境活動家ヴァンダナ・シヴァや、貧しい女性の生活と尊厳を守る運動を創造し展開した女性活動家イラ・バットなどなど、枚挙に暇がない。

こうした層の厚い運動の経験から示唆や教訓を得るのも、インドとの文化交流の貴重な収穫となる。

文化交流はたんに相手国の文化や社会への興味を満たすことだけではない。国を超えて連帯して人間としてのあるべき価値や社会を追求するところにこそ真の意義がある。

当ネットワークでは、そのような文化交流も大事にしたいものだ。

荒木重雄

元NHKチーフディレクター
元桜美林大学教授
1970年代よりインドに関する調査・執筆に携わり
2001~02年 プネー大学客員教授
2004年 当会代表幹事山田一眞師により得度

更新日:2020.04.03