コロナ激禍のインドを生き延びる!(第4回)
– やはり、日本の将来はインドしかない –
日印関係アドバイザー、MIT World Peace University非常勤講師
磯貝 富夫
9.インド救援のために!
2021年5月11日、私は以下のようなメッセージを自分のネットワーク(300人超)に向けて発信した。(一部抜粋)
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既に直近のメディア報道でもご高承の通り、インドの医療崩壊が深刻さを増してきており、特に酸素不足のために救えない命が連日4千人弱も出ていることは大変悲しいことです。このような悲惨な状況下で、インドにお世話になっていて、「インドこそが日本の将来を救ってくれる」と主張している自分ができることは何かと考えていましたところ、タイミング良く5月2日に私がお世話になっています「日本アーユルヴェーダ協会」の理事長先生から、『緊急インド救援ファンド』設立のご提案を頂きました。自分ができることはこれだ!と奮起して、早速インド人の友人の同意を得て、彼の声掛けでインド人と日本人のボランティアが集り、実行委員会とタスクフォースも組織し、1週間後の5月9日の日印合同会議でこの救援プロジェクトが発足しました。このプロジェクトのメンバー全員が経験のないボランティアの集まりですが、これからの約一ヶ月の間に酸素関連などの最優先救援物資の日本からの第一便出荷とインド内配送まで取り組んで参ります。クラウドファンディングなども活用する予定です。当然ながら募金の集金明細や使途明細の透明性、トレーサビリティなどを確保しながら進めて参る所存です。
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2021年5月21日、上記のメッセージに続き、以下のメッセージを同じ宛名に一斉配信した。(一部抜粋)
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先日、この一斉配信でお伝えしておりました、民間有志グループによる『緊急インド救援ファンド』が5月9日に設立しました。このファンドはクラウドファンディングと銀行振り込みを利用して、インドの窮状を救うための義援金の公募をするボランティア活動です。これはインドの伝統医学である「アーユルヴェーダ」(生命の科学)に関わっておられる学術団体の「日本アーユルヴェーダ学会」と「NPO法人日本アーユルヴェーダ協会」の2つの団体による合同の募金活動です。正式名称は「世話プロジェクト 日本からインドへ COVID-19救援ミッション」となりました。このプロジェクトに参画しているインド人の有志からアイデアを募って、「Sewa Project」というニックネームを付けました。SEWAという言葉はインドのヒンディー語でも日本語と同意語とのことです。同プロジェクトは本日より、クラウドファンディングを通して義援金の申し込みを受け付けております。
このプロジェクトでは、インド政府認定による国際援助の受け皿となるインド赤十字社を通して、緊急に必要とされる医療機材などの救援物資の調達と無償提供、及び義援金の日本からの送金を行います。その資金集めのために皆さまのご支援をお願いする次第です。第一弾は5月31日までの期間での義援金の公募を行います。
このインド救援活動にご関心がおありの皆さまにおかれましては、クラウドファンディングにお申込みを頂き、クレジットカード決済もしくは銀行振り込みにて募金をお願いする次第です。同ポスターはSNSなどでも広く拡散して頂ければ有難いです。今回のこのプロジェクトの第一弾(5月31日まで公募)では、緊急救援物資調達資金および義援金として1500万円を目標金額としました。
日本でもコロナ禍による身近な人の罹患はもとより、コロナ対策による経済活動の低迷を背景に、経済的に大打撃を受けられている方も多くいらっしゃることでしょう。その反面、長期に亘り外出が制限され、外食や旅行の機会も大幅に減少している中で、家計出費がセーブされた一面もあるのではないでしょうか。個人の寄付者様には一口5,000円の募金をお願いしております。募金としては少し高い金額かも知れませんが、例えば家族での外食やお祝いのイベントなどで出費する金額ではないかと思います。その一回分程度を今回の募金に充てて頂くことで、罪もなく不幸にしてコロナに罹患し、医療崩壊が無ければ救えるはずの何人かの尊い生命を
救うことに役立つかも知れません。私はインドに10年お世話になっておりますが、インドの実情を深く知るにつけ、日本人として生まれたことをどれだけ幸運に思うことが何度あったことか、数え切れません。
皆様の温かいご支援をどうぞ宜しくお願い致します。
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2021年5月31日、「世話プロジェクト 日本からインドへ COVID-19救援ミッション」の義援金公募第一弾の最終日である。クラウドファンディングのホームページでは、募金額は323.9万円と表示されているが、これにはクラウドファンディングのホームページを通さずに、義援金口座に直接銀行振り込みされた分は含まれていない。最終の集計と精査を待たないと、最終の募金額は確定しないが、私の個人的な推計では、凡そ500万円近い義援金が集まったものと見ている。この金額の範囲で救援物資を調達し、インド赤十字社に送ることが次の喫緊の課題である。そして、この救援活動は少なくとも後1ヶ月は継続することになるであろう。その方針決定は主体者である、日本アーユルヴェーダ学会と協会が決めることになるが、お手伝いさせて頂いている自分としては、第二弾こそ、より多くの協賛者を得て更に大きな支援になることを期待して止まない。このプロジェクトには「日印文化交流ネットワーク」様にもご後援を頂戴し、ご支援を頂いていることに対し、同会の幹部の皆さまをはじめ、会員の皆様のご厚意に対し心よりの感謝を申し上げます。その後、この「世話プロジェクト」は6月20日まで義援金の公募を行うことになり、6月20日時点のちょうど一ヶ月間で、累計650万円もの義援金を集めることができた。その一部は既に6月15日にインド赤十字社に酸素濃縮器15台を寄贈する形で救援を実現できたことは嬉しい限りである。残りの義援金をどのような形でどの機関に物資を提供するか、近日中にも決定する予定である。一部の義援金はクレジット決済のため7月20日までには全ての義援金をインド側に拠出することになる。改めてこのプロジェクトについての報告の機会を得ることになるであろう。
10.日本にはインドしかない!
以上長々と取り留めもなく綴ってきたが、コロナ禍のインドを1年以上に亘って実体験してきた、生々しい貴重な記録であると思っている。この拙稿には含めなかったが、オンラインによるインド人の結婚式や、お葬式などもコロナ禍の特徴的な事情として、当たり前の生活シーンになっていたことを付け加えておく必要があると思う。余談になるが、実は自分の長男の結婚式も5月にオンラインでインドから参席することになってしまったのであるが、親族代表の挨拶が大画面に映し出されて却って目立ってしまい失笑。私事なので詳細は割愛させて頂いた。
最後にまとめに代えて、私自身が改めて感じ入った日印関係と将来展望について触れておきたい。
現状はコロナ激禍で大変厳しい情勢にあるインドだが、今回の一連のコロナ対策を振り返ってみると、モディ首相のリーダーシップの下で、迅速な対策実行がなされ、首相自ら先頭に立ち、国民の協力を求めてきたことは高く評価されている。また、コロナ対策の個々の内容を見ても、非常に細かなSOP(標準作業手順)が打ち出されてきたことも注目に値する。但し、国民の多様性や地域特性などを勘案しなければならない点で、インド全土一律のルールを作ることの難しさや実行面での徹底には相当な苦心を強いられていることも理解できる。数回に亘るモディ首相自身による国民へのスピーチでは、インド北東部の民族衣装を身にまとったり、仏陀について言及するなど、多宗教国家を取り纏めるための工夫が見て取れた。
昨年9月末に第一波のピークを経て、今年の2月末ごろにはワクチン外交を推進していたモディ政権内に「コロナは終息か」との楽観的な見方が出たことで、国民の気の緩みと、モディ政権によるヒンドゥー教徒への配慮(前出のクンブ・メーラ)、選挙がらみの政治集会への参加などが、コロナ第二波による一層深刻な状況を招いた感が否めない。
総じてインドは日本とは対極にあるが、中期的視点に立つと2025年頃には世界一の人口大国となることが確実であり、若年層の人口では既に今日でも世界一になっていることを知る日本人は少ないのではないか。私は2030年を一つの区切りとして捉え、それまでに日印二国間の基盤となる人的交流を大きく発展させることが、将来の日本のために重要であるとの認識の下で、日々微力ながら活動している。人的交流の対象も今後は大学から高校へと、その重点をシフトさせようという段階である。今年度から一部の日印の私立高校間交流にも関与していく予定である。
私の持論のひとつは、「インドを知ることで世界を知ることができる」、「インドを制する者は世界を制する」というもので、インド人の生徒や学生と交流することで、日本の若者たちは大いなる刺激を受け、平和ボケと安住から目が覚め、その中から発奮する子供たちが必ず10人に一人は出てくることを、私は経験上知っている。その交流の機会を増やすことで、この比率は少しずつ高まっていくはずだ。
更にその先の2050年を見据えると、今の中学生は2050年には40歳を超えているので、その頃の日本を支える中間管理層になっている。この世代には、国際感覚と世界で通用する思考力、創造力、忍耐力、交渉力そして何よりもヒューマニティに富んだ人格を備えて欲しい、と心から願っている。これらのスキルを身に着けるには、インドこそが最適な修道場となることは間違いない。
インドの人口が世界一になったとき、世界中がインドに真剣に注目するターニングポイントを迎えることになるであろう。その時になって日印の関係を強固にしようとしても、日本が世界の中で競争優位に立っていなければ手遅れとなる。今の世界情勢を見ても、中国の世界覇権を目指す動きと、それに対抗しようとする米国、EUと英国の弱体化は今後更に顕著になっていくと見られる。既にQUAD(日米豪印の4ヶ国連携)が英国やフランス、ドイツなどを取り込むかの動きも見えてきた。そのような世界情勢の中で、インドが人口ボーナスを享受し、大国として確実に成長して来ることは必定である。2030年までにインドが日本の経済規模に追い付き、追い越す勢いを得たとき、かつての中国詣でのような波がインドに対して起きることであろう。その時に日印の架け橋となって活躍してくれる人材を、今から育てておく必要があると私は思う。
このような将来展望から、日本の教育界でも今後インドへの注目度は高まっていくことを期待している。日印両国の関係(歴史と文化的背景)は他のどの国との関係よりも圧倒的にポジティブであり、かつ補完関係にあることを理解すれば、いかにインドとの関係の強化が、日本の将来にとって重要であるかは自明の理である。現状ではまだまだ両国間の相互理解のための努力と人的交流が足りないために、相互理解が進んでいないことを私は日々切実に感じている。この観点からも中等・高等教育での日印の人的交流と連携を進める必要があると思う。ビジネスの世界では、日印は必ずしもWin-Winの関係には成り得ていないケースも多く、日本側には不満も多いようだが、それはまだ両国間の根本的な相互理解と信頼関係が確立されていないことの証である、と私は分析している。その点では、利害関係のない若者同士の交流を促進することにより、両国間の相互理解と信頼関係の蓄積が容易にかつ短期間で実現し、将来の両国の相互発展に大きく寄与するであろうことを私は確信して止まない。そして、それらを実現することは決して難しくはない。何故なら、私自身が日々実践してきたことだからである。今回の緊急インド救援の「Sewa Project 日本からインドへ COVID-19救援ミッション」にしても、ボランティアを集めてくれたプロジェクトリーダーや、集まってくれたインドの若者達の無私無欲の働きぶりには本当に頭が下がる。インドの友人こそが、困った時に頼れる存在であることを、信じて疑わないのは決して私一人であるはずがない。
やはり、「日本の将来はインドしかない!」のである。
2021年6月30日 プネにて
(本稿は関西日印文化協会が2021年8月15日発刊予定の「日印文化」インド共和国第75回独立記念特集号への寄稿文の元となる記録の全文を、同協会の了承の下、一部加筆修正して連載するものです。)
磯貝富夫プロフィール
1956年兵庫県尼崎市出身。1979年京都外国語大学卒、同年シャープ(株)入社。2016年シャープ(株)を定年退職するまで37年間に亘りグローバルビジネスに携わり、海外生活は延べ28年。現在は西インド、プネ市在住でインド滞在は11年目。日印関係フリーランスアドバイザーとして、インド企業のアドバイザー業務に携わり、プネ市の私立大学経営学部で非常勤講師として教鞭を執りながら、日本語と日本文化の教育振興にも貢献している。日印の将来の発展を目指して若者間の交流促進に最も注力し、東京大学インド事務所主管の留学生誘致活動である「留学コーディネーター委員会」のメンバーを務めている。今年4月から親日NPO団体であるIJBC(Indo-Japan Business Council)の顧問に就任。
更新日:2021.08.31