ガンディー「知足」の精神③
決裂した双方を結びつける
[こうして]わたしは、法にたずさわる者の職務について学んだ。わたしは、人間性のよい側面を見出し、人びとの心のなかに入りこむことを学んだのである。わたしは、弁護士の真の役割は離ればなれに決裂していた[原告と被告の]双方を結びつけることだと悟った。この教訓は、わたしの心に拭いきれないほどの深い印象を刻みこんだ。そのため、わたしの弁護士としての20年間の業務の大半は、幾百という訴訟事件を和解にもちこむことに費やされた。そのことで、わたしはなにひとつ失うことはなかった— 金銭的にも、ましてやわたしの魂を失うことがなかったのはたしかである。
虐げられた人びとに仕える
わたしは自分のうちに、なにかとくに聖(きよ)らかなものがそなわっているとは言わない。わたしはまた、自分には預言者的な性格があるなどと公言しない。わたしは慎ましい一介の真理の探究者にすぎず、真理を見出そうと専念してきただけである。わたしは神にまみえるためならば、どんな犠牲をもいとわない。わたしの行動—それが社会的なものであろうと、政治に向けられているのである。そしてわたしは、神がしばしば、身分の高い者や権力者たちよりも、彼の創造物のいちばん身分賤しい人びとのうちに見出されることを知っているので、そのような人びとの境涯に身をおこうと、わたしなりに努めているのである。彼らへの奉仕なしには、わたしは神を見出すことはできない。ここに、虐(しいた)げられた人びとに仕えんとする、わたしの熱意(おもい)がある。そして、政治にたずさわらずに、この奉仕をおこなうことができないので、わたしは政治の世界にわが身をおいてきたのである。したがって、わたしは人の上に立って命令するような存在ではない。わたしは闘いつつ、過ちを犯す、一人の敬虔なインドの下僕(しもべ)にすぎない。
(森本達雄 編訳『ガンディー「知足」の精神』 [人間と歴史社]、第9章「非暴力」の人生観より)
『サルボダヤ』6月号(一般社団法人 日印サルボダヤ協会、2020年)より転載
一般社団法人 日印サルボダヤ交友会:http://sarvodaya-japan.org/index.php
更新日:2020.07.17