インドの聖地巡礼/齋藤昭俊
私は、1956年(昭和31年)から2年間、インド留学の機会が与えられて、ベナレス・ヒンドゥ大学のムロティ教授につきました。ところが、先生は仏教を含む哲学の専門家でいらっしゃり、私はインドの宗教活動を研究しようとしていましたので、大部分を旅行ばかりしていた不真面目な留学生でした。
その当時のインドは、イギリスから独立して9年、ガンジーさんが暗殺されてから8年後でしたが、政情は安定していました。1ドルが360円、インド・ルピーは75円60銭で、留学生には月額200ルピーが支給され、インター・ナショナル・ハウス(留学生会館)での部屋代・食事代は月100ルピーでしたので、残りの100ルピーでインド各地を旅行することができました。
インドは兎に角、宗教的な国です。
山や河は神格化され、聖地は神や聖者と結びついています。ガンジス河とヤムナ河の河岸には、ガンゴトリ、ハルドウル、アラハバード、バラナシー(ベナレス)、サーガル島などといった多くの聖地があります。インド三神といわれるシヴァ神、ビシュヌ神、ブラマー神はそれぞれ、破壊の神、支配の神、創造の神とされていますが、このうちシヴァ神とビジュヌ神は全国的に祀られていますが、ブラマー神の寺院はただ1ヶ所、プシュカルにあるだけです。全国的には、この三神の他にクリシナ神、ラーマ神、ドルガ神などが祀られています。
聖地は千何百あるといわれ、現代の聖地といわれているものだけでも140ヶ所ほどあります。中でもカーシー(ベナレス)、マトラ、ハリドワル、アヨドヤ、ドヴアラカ、アヴァンチカ、カーンチは、昔から七大聖地とされています。また三大聖地とされるのはベナレス、アラハバード、ガヤですが、ベナレスは、シヴァ神の町、苦行の地、臨終の地とされて全国から人々が集まってくる有名な聖地です。またアラハバードは、ガンジス河とヤムナ河の合流地で、数十万の人達が集まる聖地です。
私も何回かまわらせていただいた仏教の聖地は、お釈迦さまが生れたルンビニ、お悟りになったブッダガヤ、初めて法をお説きになったサルナート、おなくなりになったクシナガラが殊に有名で、四大仏蹟と呼ばれています。それに竹林精舎のラージギル、最後の説法をされたバイシャリ、天から降りてきたとされるサンカーシヤ、祇園精舎のサヘートを加え、八大仏蹟といわれています。更にはサンチの仏塔や、エローラやアジャンタの石窟寺院、南インドのナーガルジニコンダなど有名な遺跡があります。
また、仏教以外のジャイナ教、シク教、イスラムの聖地なども多くあり、正にインドは聖者と聖地の国です。
当時私は、旅行するのに寝袋(ホールドー)を持って、二等車で動きました。地方ではゲスト・ハウスを利用し、都会では専らリキシャでまわりました。カジェラホに行ったときなどは、何回も何回もバスを乗りついで旅をしましたが、今考えると、よくも一人であんなに動いたものだと吾ながら感じ入って居ります。今では到底そんなことはできません。(神名・地名等の表記については日本語的表現になっております)
齋藤昭俊
大正大学名誉教授
全国青少年教化協議会理事
1956年~1958年 ベナレス・ヒンドゥ大学に留学
更新日:2017.11.24