河野亮仙の天竺舞技宇儀 番外編

極私的日印文化交流年表

「天竺舞技宇儀」を連載中の河野亮仙氏から、「極私的日印文化交流年表」が寄稿されました。河野氏のインドへの思いと関わりが反映された、しかも、1970年代以降の日印文化交流の一面の歴史を詳細に記す年表です。

 読者の皆さんも、ここに記された幾つかの事項に懐かしい思いを甦らせるのではないでしょうか。資料としても貴重です。そしてまた、皆さんが、それぞれのインドへの思いや関わりを込めてご自身の「極私的」な日印交流の年表を描くきっかけになれば、との期待をもって、ここに掲載させていただきます。

「学ぶ・知る」編集担当]

1913年

 大正2年、タゴールがアジア人で初めてノーベル文学賞。

1916年

タゴール来日。

1947年8月15日  

 インド独立。

1949年9月15日  

 象のインディラ来日、上野公園へ寄贈。

1951年3月     

 インドの主導によりニューデリーで第1回アジア競技会。

1952年6月9日   

 日印平和条約調印。

1958年              

 ラヴィ・シャンカル初来日。数週間滞在してテレビ出演も。

1964年10月10日 

 東京オリンピック開催。

1966年       

 6月 ビートルズ来日、

 7月 ジョン・コルトレーン来日。

 11月 サタジット・レイ監督「大地の歌」初公開。

1968年       

 明治100年記念芸術祭にカタカリ舞踊団が招かれる。

1970年              

 大阪万国博覧会に多くのインド音楽家・舞踊家が参加する。

1972年1月

 日印協会は音楽舞踊の関係者44名をインドに派遣し交流。

1979年12月

 琴の宮下伸と尺八の山本邦山が厚生年金会館において、ラヴィ・シャンカル、アラ・ラカと共演。

1982年

 10月から 国際交流基金映画祭「南アジアの名作をもとめて」。札幌から那覇まで全国を巡回する。

 11月 第9回アジア競技大会がニューデリーで開催される。

1983年

 5月 色彩の舞踊劇「カタカリ」全国公演。

 8月 「インド古典舞踊の夕べ」が在日インド人協会によって催され、カルカッタのカラーマンダラムが来日。カタカリ、バラタナーティヤム、モーヒニーアーッタムを披露。

 10月 第1回増上寺インド祭り。インド映画祭。

1984年10月

 第2回増上寺インド祭り

1985年9月          

 芸術祭40周年、NHK放送開始60周年記念でインドからカタカリ舞踊団、スリランカとバングラデシュ、トルコ、マレーシア、フィリピン、インドネシア・バリ島から舞踊団を招く。

1986年

 5月 グル・ケールチャラン・モハパトラを招いて、クンクマ・ラールとオリッシー公演。

 11月 犬山リトルワールドにケーララの村完成を祝ってカラリパヤット来日。

1987年

 7月 ケーララの仮面舞踊劇パダヤーニ、おおはさまハヤチネ・フェスティバルに参加。ラフォーレミュージアム赤坂で公演。

 11月 シヴクマール・シャルマとザーキル・フセイン来日公演。

1988年

 2月 オフィス・アジアがイムラット・カーンと息子たちを招聘。

 4月 インド祭で全国的に様々なイベントが開催される。

 8月 東京国際演劇祭’88池袋にケーララから劇団ソーパーナム来日。

 9月28日 代々木第2競技場でスーパーエキサイティングカバディ開催。インド選手が来日して、男子・女子の交流試合が行われる。

1989年

 2月 アリ・アクバル・カーンのサロード・コンサート。

 4月 アムジャッド・アリ・カーンを日本文化財団が招聘。

  9月 早稲田銅鑼魔館にてスチトラ・ミトラの公演。バラタヌリティヤと称するパドマー・スブラマニヤムのスタイルを披露。

1990年

 7月 シャヒード・パルヴェーズ(シタール)来日公演。

  11月 ハリプラサード・チャウラーシアー(バーンスリー)来日公演。チャウラーシアーは88年7月インド祭開会式に初来日。その後、93年、98年にも来日。

1991年

 第2回福岡アジア文化賞大賞をラヴィ・シャンカルが受賞。

 10月 国際交流基金の企画「アジア伝統スポーツの競演」にケーララ武術のカラリパヤットが参加。

1992年

 1月 サントリーホールにてニシャート・カーンのシタール演奏会。

 6月 ママタ・シャンカル舞踊団とダーガル・ヴァーニー全国公演。

 8月 スルターン・カーン(サーランギ)来日公演。

 9月 ダナンジャヤンとシャンター(バラタナーティヤム)来日。ダヤ・トミコと関西3都市と東京で公演。

1993年11月

 民音によるアラメル・ワッリのバラタナーティヤム全国公演。

1994年

 第5回福岡アジア文化賞芸術・文化賞をパドマー・スブラマニヤム(バラタナーティヤム)が受賞。

 6月 ケーララ・カラーマンダラムによるカタカリ舞踊劇全国公演。

1995年

 第6回福岡アジア文化賞学術研究賞 辛島昇(南インド中世史)。

 1月 アムジャッド・アリ・カーンがこまばエミナースで公演。

 6月 かつしかシンフォニーヒルズにてアーシシ・カーンのサロード演奏会。タブラーは弟のプラネーシュ・カーン。

 7月 マニプリー舞踊と武術タンタの全国公演。10月1日すみだリバーサイドホールで行われたナマステインディアにも参加。

 10月 南インドの大型影絵芝居トール・ボムマーラータ来日。増上寺でラーマーヤナ・フェスティバル。

1996年

 第7回福岡アジア文化賞芸術・文化賞をヌスラット・ファテー・アリー・カーン(カッワーリー)が受賞。

 6月 国際交流フォーラムにてケーララ州の映画監督アラヴンダン特集。「黄金のシーター」「サーカス」「魔法使いのおじいさん」

 6月 インド現代舞踊チャンドラレーカ舞踊団が第12回東京の夏音楽祭に来日

 8月 マニプリー州のジャゴイ・ナチョム舞踊団公演。ポストインド祭を考える会。

1997年              

 福岡アジア文化賞学術研究賞 ロミラ・ターパル(歴史学)

 7月 ポスト・インド祭を考える会による全国公演。ケーララ州からクーリヤータム、カラリパヤット、テイヤムの3グループが来日公演。延命寺でも8月3日に行われた。

1997年10月

 巫印度研究所がA.K.ラクシュマンとマーヴィン・クーを招聘して、バラタナーティヤム公演。

1998年

 1月 高松宮殿下記念世界文化賞受賞記念で、ラヴィ・シャンカルが東京オペラシティでシタール公演。

 10月 南インド古典音楽の横笛の名手シャシーンクの来日公演。

1999年

 6月 スバラニ・バナジー(カタック)来日公演。

 9月 ワシフディン・ダーガル単独での来日でドゥルパド公演。

 9月 日印共同制作、森尻純夫の作・演出による「三輪」国際交流フォーラム(赤坂)にて。

 10月 ケーララ州政府とインド政府観光局の派遣でカタカリ(マールギ舞踊学院)全国公演。

 11月 モニラル・ナグ(シタール)、娘のミタ・ナグと来日公演。

2000年

 5月 お台場のライブハウス、ラブ・ジェネレーションにて、マーラヴィカー・サルカイのバラタナーティヤム公演。

 6月 スバラニ・バナジー(カタック)来日公演。

 10月 現代人形劇センターがカタカリの役者、音楽家と人形劇パーヴァ・カタカリを招いて「カタカリの世界」として公演。

 10月 ナマステインディアにトリプラ舞踊団来日公演。築地本願寺。

2001年

 2月 国際交流基金アジアセンター企画招聘公演「サケータム」。

 6月 ウマー・ラオ(バラタナーティヤム)来日公演。CNC主催。

 8月 サーキル・フセイン、ジョン・マクラフリン、シュリニヴァス、セルヴァ・ガネッシュによるSHAKTI来日公演。

2002年9月

 民音がリーラ・サムソンを招聘してバラタナーティヤム公演。

2002年11月

 日印国交樹立50周年記念事業としてさいたま新都心けやきひろばにて、インドフェア。アルナチャール・プラデーシュ民族舞踊団来日。ワシフディン・ダーガルも参加。築地本願寺のナマステインディアほか、ダーガルは延命寺でも公演。

2003年10月

 A.ラクシュマン来日。ソロリサイタルのほか山元彩子と共演。

2004年              

 第15回福岡アジア文化賞大賞をアムジャッド・アリ・カーン(サロード)が受賞。

 5月 インド文化庁派遣カタカリ舞踊劇公演。

 5月 櫻井暁美とギータンジャリダンサーズにスラバニ・バナジー(カタック)も参加。

 7月 高輪区民センターで、インド文化庁派遣クチプディ舞踊公演。

 10月 ナマステインディアにオリッサ州のゴティプア参加。ラージャスターン舞踊公演も。築地本願寺。

 11月 現代人形劇センターがカタカリ公演。

2005年

 7月 東インドの仮面舞踊セライケラ・チョウが愛知万博に参加。

 8月 クーリヤータム来日公演。森下スタジオで4日かけて「シャクンタラー姫」全編公演。

 9月 インド文化庁派遣インド・チャルクラ舞踊公演。

 10月 ダナンジャヤン一行(バラタナーティヤム)来日公演。

2007年              

 第18回福岡アジア文化賞大賞 アシシュ・ナンディ(文明評論家)。

 日印交流年ということで、生け花、折り紙、茶道、空手、凧などの文化交流、宝塚、神楽、和太鼓、能楽、箏曲、琉球舞踊の公演がインドで行われ、日本映画も上映。観世清和、落語の桂歌丸、茶道の千玄室ら大物も訪印。エミ・マユーリ率いるナーティヤ・マンジャリ・ジャパンによる舞踊劇公演もバナーラス、チェンナイで行われた。音楽・舞踊の来日公演は20を超える。

 5月 A.ラクシュマン来日、ヌリッティヤ・ラクシャナ・ジャパンによるバラタナーティヤム公演。

 11月 ヤクシャガーナ・ゴンベヤータ。南インドの糸操り人形。主催現代人形劇センター。

2008年             

 サンスクリット語舞踊劇クーリヤータムが能と共にユネスコの無形文化遺産に選ばれる。

 8月 サンスクリット語舞踊劇クーリヤータム来日全国公演。

2009年

 第20回福岡アジア文化賞学術研究賞 パルタ・チャタジー(政治学)

 4月 チャンドラシェーカラ(バラタナーティヤム)来日講演。

2012年              

 第23回福岡アジア文化賞大賞 ヴァンダナ・シヴァ(環境哲学者)

 1月 アジアの人形芝居四カ国交流。ヤクシャガーナ人形劇団のレクチャー・デモンストレーション。人形劇団ひとみ座にて。

2013年

 第24回福岡アジア文化賞芸術・文化賞 ナリニ・マラニ(現代美術)。

2014年5月

 ビルジュ・マハーラージ(カタック)来日公演。

2015年

 第26回福岡アジア文化賞学術研究賞 ラーマチャンドラ・グハ(歴史学、社会学)。

 5月 チャンドラシェーカラ(バラタナーティヤム)とラフール・アーチャリヤ(オリッシー)来日公演。

2016年

 第27回福岡アジア文化賞大賞 A.R.ラフマーン(印度映画音楽作曲家)。

2017年

 10月 芸術祭十月大歌舞伎「マハーバーラタ戦記」歌舞伎座。月

 12月 五耀會によるカタックダンサーとの共同制作で「ラーマーヤナ」ニューデリー公演。

2018年              

 福岡アジア文化賞芸術・文化賞をマハーバーラタに基づく歌語りのテイージャン・バーイーが受賞。

 7月 五耀會の日本舞踊家五人とカタックの共演「印度の魂 日本の心 真夏の宵の共演」。国立劇場小劇場にてラーマーヤナなどを演じる。

 この年表は、たまたま、わたしの手元にあったパンフやチラシなどに基づいて、目に止まった音楽舞踊関係者を中心に、とりあえず試作したものです。まだまだ、遺漏や不備があり未完成です。どんどん、皆さん情報を寄せてつながってください。

 概観してみると21世紀に入って、大物アーティストが年を取ったのか、来日が少なくなる。経済状態の悪化により、文化関係の予算が減ったのか、規模が縮小しているように感じる。

 もっとも、近年の記載が少ないのはわたしの関心が、梵字悉曇に移り、あまり、出かけなくなったからでもある。「インド通信」や日印協会の「月刊インド」などを調べて追加・訂正していただきたい。

 また、シタールとバラタナーティヤムが多いのは当然としても、カタカリが意外と多い。歌舞伎を連想させるためだろうか。歌舞伎による「カルナ」も昨年は制作された。インド進出が望まれる。

 一昨年から五耀會による日本舞踊とインド舞踊のワークショップ、共演の計画が進められ、今夏、国立劇場で行われた。真夏の夜の夢に終わらず、今後も継続されることが望まれる。

 音楽、舞踊、映画、美術工芸、農業や科学、学術など、それぞれ、分野別に構成できるといい。大学別の留学生の記録も残しておきたいところだ。

 88年インド祭とか、2007年の日印交流年、ナマステインディア、民音、労音、国際交流基金や国立民族博物館、ミティラー美術館の活動など、別項を立ててまとめるべきところも多々ある。

 注目すべきは福岡のアジア文化賞だ。ラヴィ・シャンカル、アムジャッド・カーンに続いて、ラフマーンが受賞している。今や、インド映画の流行と共に、世界中でラフマーンの曲が愛されているのは素晴らしい。

 70年大阪万博に参加した芸術家についても調べたいところだが、わたしの手に余る。

 また、これは輸入超過だ。日本から誰がインドに行って何をしたかが分かると完璧になるので、ご協力ください。農業や技術、学術関係でかなり行っていると思われます。

参考文献

「視る・聴く・感じる インド」インド祭日本委員会、1988年。

「2007年日印交流年・日本におけるインド祭」在京インド大使館。

山崎利男・高橋満「日本とインド/交流の歴史」三省堂選書、1993年。

河野亮仙 略歴

1953年生

1977年京都大学文学部卒業(インド哲学史)

1979年~82年バナーラス・ヒンドゥー大学文学部哲学科留学

1986年大正大学文学部研究科博士課程後期単位取得満期退学

現在 大正大学非常勤講師、天台宗延命寺住職

専門 インド文化史、身体論

更新日:2018.07.30