サールナートの初転法輪像
インド聖地、第一に数えられる北インドのヴァラーナシは、ブッダの時代から、つまり2,600年前から聖地として大切にされてきたようである。
ブッダはブッダガヤでお悟りになったあと、ご自分の悟りの内容を検証するため300キロ離れたヴァーラナシ郊外のサールナートに向かった。ここで5人の苦行者に、お悟りになった内容を詳しく説いていった。
それは、今日、四聖諦(ししょうたい)と伝えられる、「苦、集、滅、道」の教えである。人生は苦であり、それは多くの煩悩があるからであり、その煩悩を滅することが生きる上で大切である。そして、煩悩をなくす正しい方法は、正しいものの見方を始めとする、8つの正しい行いの中から得られるものとブッダは説かれたのだった。
こうして仏の教え、仏教は始まった。
インド仏教美術の中で最高傑作と言われる、この初転法輪像は、5世紀、グプタ朝の時代に、サールナート近郊のチュナールのきめ細やかな砂岩で作られた仏像である。極めて円満なお顔立ちであり、インド仏教美術の頂点といえるだろう。この美術の流れは、遠くインドネシアのボロブドゥールまで影響しているのである。
松本 榮一(Eiichi Matsumoto)
写真家、著述家
日本大学芸術学部を中退し、1971年よりインド・ブッダガヤの日本寺の駐在員として滞在。4年後、毎日新聞社英文局の依頼で、全インド仏教遺跡の撮影を開始。同時に、インド各地のチベット難民村を取材する。1981年には初めてチベット・ラサにあるポタラ宮を撮影、以来インドとチベット仏教をテーマに取材を続けている。主な出版、写真集 『印度』全三巻、『西蔵』全三巻、『中國』全三巻(すべて毎日コミニケーションズ)他多数
更新日:2021.03.04