カニシカ王のコイン(大英博物館蔵)
仏教の東西交流史の中で大きな役割を果たしたカニシカ王(144-171頃)は、中央アジアに起ったクシャーナ朝の最盛期の王です。王は、都を今のペシャワールに定め、アフガニスタンからインドまでの広大な版図を統治しました。副都にマトゥーラーを定めました。
首都プルシャプラ(今のペシャワール)のガンダーラ地方と、副都のマトゥーラーに仏教美術が花開いたのは、カニシカ王の存在抜きには考えられません。特に仏像はギリシャ・ヘレニズムの影響で、初めてこの時代に誕生したと考えられています。
カニシカ王はカリンガ(今のオリッサ地方)の征服で武力による支配に疑問を持ち、仏教に帰依したと伝えられています。王の精神的な師である、アシュヴァゴーシャ(馬鳴)の影響が大きかったのでしょう。
最晩年には帝国の通貨を自らの肖像から、ブッダの肖像に変えました。
この金貨は現存するものはわずかで、しかも最初の仏像と考えられています。仏像の誕生です。
こうして、仏教と仏教美術がクシャーナ朝の発祥地サマルカンドに伝わり、シルクロードで、中国、日本に伝わったと考えられています。
松本 榮一(Eiichi Matsumoto)
写真家、著述家
日本大学芸術学部を中退し、1971年よりインド・ブッダガヤの日本寺の駐在員として滞在。4年後、毎日新聞社英文局の依頼で、全インド仏教遺跡の撮影を開始。同時に、インド各地のチベット難民村を取材する。1981年には初めてチベット・ラサにあるポタラ宮を撮影、以来インドとチベット仏教をテーマに取材を続けている。主な出版、写真集 『印度』全三巻、『西蔵』全三巻、『中國』全三巻(すべて毎日コミニケーションズ)他多数
更新日:2019.09.30